松山地方裁判所 平成2年(行ウ)3号 判決 1996年1月26日
原告 武内悟
被告 愛媛県知事
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
被告が昭和五六年一二月二一日付け書面により原告に対してなした、森林法五〇条一項に基づく使用権設定に関する協議の認可申請を棄却した決定を取り消す。
第二事案の概要
本件は、山林所有者である原告が被告に対し、森林法五〇条一項に基づき使用権設定に関する協議の認可申請をしたところ、被告が原告に対し、他に代わるべき代替路線があるとの理由で、右認可申請を棄却する決定をしたため、原告が同棄却決定の取消を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は別紙物件目録(一)記載の山林(以下「本件山林」という。)を所有し、炭倉洋が別紙物件目録(二)(三)記載の山林(以下「三六八番山林」「三五九番山林」という。)を所有していた。右三六八番・三五九番山林は、炭倉洋から委託を受けて、上甲福登が管理していた。
2 原告は本件山林について木材の伐採・搬出を計画した。原告は、本件山林から東側斜面麓の農道大麦線まで上空に集材架線を張り、右集材架線を使って本件山林の木材を右農道大麦線まで搬出することを計画し、三六八番・三五九番山林が右搬出ルートの線下に当たると考え、炭倉洋に対し、三六八番・三五九番山林の上空通過の承認を求めたが、炭倉洋がこれを承認しなかった。
3 そこで、原告は昭和五六年二月二六日被告に対し、炭倉洋が上空に集材架線を張ることを承認しないことを理由に、森林法五〇条一項に基づき、使用権設定協議に関する認可申請(以下「本件認可申請」という。)をした。本件申請書には、右搬出ルートを明らかにするため、別紙第一図面が添付されていた。
4 被告は、原告が申請した木材の搬出路線(以下「申請路線」という。)が不明確かつ不合理であるとして、原告が申請した路線に最も合理的と思える路線を別紙第二図面のA・B線と特定した。そして、被告は、本件山林から南側斜面麓の林道羽子の木線まで上空に集材架線を張り、右集材架線を使って、本件山林の木材を右林道羽子の木線まで搬出する路線(以下「代替路線」という。)が存在すると考えた。代替路線は別紙第二図面のA・C′・C線である。
5 そこで、被告は、申請路線については、他人の権利の侵害の程度がより少ないと認められる代替路線が存在し、かつ、代替路線による木材の搬出が申請路線による場合と比較して、格別困難であるとは認められないとして、森林法五〇条一項所定の要件を欠いていることを理由に、昭和五六年一二月二一日付け書面により原告に対し、本件認可申請を棄却する旨の決定をした。
6 そのため、原告は昭和五七年二月二二日農林水産大臣に対し、本件認可申請棄却決定について審査請求をしたが、農林水産大臣も平成二年六月六日付け書面により原告に対し、ほぼ本件認可申請棄却決定と同じ理由により、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。そこで更に、原告は平成二年八月二五日被告を相手に、本件認可申請棄却決定の取消を求めて本訴を提起した。
二 原告の主張
1 申請路線の特定及び搬出費用等について
(一) 申請路線の間伐材の搬出方法は次のとおりである。すなわち、別紙第三図面のA1点からB点に向け、リモコン飛行機を飛ばして集材架線を架設し、この一本の架線により林内集材と林外搬出を同時に行う。A1・B線一本の架線により、全体の二五パーセントの間伐材の搬出が可能である。次に、リードロープを使用して、A1・B間に架設された集材架線を、別紙第三図面のA2・B間に移動させて張り替える。その後、A1・B線と同様に、A2・B線一本の架線により、全体の二五パーセントの間伐材を、林内集材及び林外搬出の一連作業で搬出する。以下同様に搬出作業が終わるまで、リードロープによる集材架線の張り替えを繰り返す。理論上は、A4・B間までの三回の集材架線の張り替えで、搬出作業を終えることができる。
(二) 以上の搬出方法によると、本件山林からの間伐材の搬出に必要な経費は、(1)A1・B間の集材架線の架設費用二〇万円、(2)A2・B間、A3・B間、A4・B間の集材架線の架設費用二四万円、(3)集材架線の撤去費用八万円、(4)木材搬出費用一〇二万八〇〇〇円、(5)器具損料七万五〇〇〇円、(6)燃料費三万三〇〇〇円、(7)用地補償費四万一〇〇〇円、以上合計一六九万七〇〇〇円ですむ。
(三) なお、申請路線においては、その集材架線下となる土地所有者のうち、炭倉洋のみが上空に架線を張ることを拒絶している。原告は炭倉洋に対して用地料及び損害金の支払を申し出ており、また、炭倉洋所有山林の上空に架線を張って間伐材を搬出させたからといって、右山林に損害は生じないので、申請路線下の土地を使用することについて不適切な点はない。
2 代替路線の実施及び搬出費用について
(一) 代替路線の間伐材の搬出方法は次のとおりである。すなわち、別紙第三図面のA点から中間支柱点C′点を経てC点まで、集材架線を張って搬出作業を行う。A点付近においては、林内集材のため合計五本の索張りを行う。
(二) しかし、代替路線は以下のような欠陥があり、そもそも実施不可能なものである。
(1) 本件山林は平均三三度の急勾配であるところ、代替路線においては、A点までの林内集材は、残存木がある中を上方に向かって峰越えしながら集材する必要があり、これだけでも実施困難と言わねばならない。集材用の索張りを利用するといっても、そもそもこのような急勾配下の山林においては、林内集材架線が途中で地面に接地してしまい、林内集材の実施は不可能である。
(2) 仮に、中間支柱を使って林内集材架線を設置しようとするならば、林内集材架線(五本の索張り)が地面に接地する可能性が高く、これを避けようとすると、合計五四本の中間支柱を設置する必要がある。当然、C′点にも中間支柱を設置する必要がある。しかも、本件山林には中間支柱に利用できる立木がないので、林内集材架線の中間支柱及びC′点の中間支柱の材料は下から上げなければならないこととなり、中間支柱の設置には、巨額の費用が必要となる。原告の算定によれば、中間支柱一か所の設置費用は三〇万円であるから、これだけでも一六五〇万円(五五本分)が必要である。また、林内集材をする場合に、各林内集材架線に多数の中間支柱が設置されているので、カッチンにオオイガネをする必要があり、作業能率が落ちる。更に、本件山林は、急勾配に加え、谷あり、崖あり、溝ありで地形は一定していないから、中間支柱の設置は必然的にジクザクとなるところ、間伐木の中には長さ一六メートルに及ぶものもあるから、必ずや集材の途中で中間支柱に間伐木が衝突し、莫大な修理費用が必要となる。
(3) また、林外搬出のための架線についても、申請路線は、見通しが良くまっすぐな索張り線を張ることができるが、代替路線は、見通しが悪いのでまっすぐな索張り線を張ることができない。
(4) その上、申請路線においては、支障木及び損傷木はほとんど考慮する必要がないのに対し、代替路線においては、平均三三度の急勾配の山林を上方に向かって林内集材するので、伐材が上下左右に動いて残存生立木を傷つける。したがって、代替路線においては、本件山林内の支障木及び損傷木が少なくとも二〇〇本生じる(一〇〇万円の損害)。林外搬出についても、C′点に中間支柱を設置し、C点に搬出用土場を設けることに伴い、檜五〇本、雑木八〇本の支障木・損傷木(二九万円の損害)が発生する。この事情に照らしても、代替路線による搬出は、山林の育成・保全を阻害するもので、その実施は困難である。
(三) 代替路線による本件山林からの間伐材の搬出に必要な費用は、次の(1)ないし(8)だけでも合計二三二五万四〇〇〇円となり、代替路線は申請路線の一三倍以上もの費用がかかる。しかも、右算定においては、集材中に間伐木が中間支柱に突き当たって補修が必要となった場合の補修費用を考慮していないが、これを含めれば、代替路線がその経費の点で実際上実施不可能であることは、一層明らかである。
(1) 集材架線の架設費六五万円
林内集材用架線の架設に三五人役(一人役が一万円であるから三五万円、以下同じ)、及び林外搬出用架線の架設に三〇人役(架線張りに二〇人役、中間支柱架設に五人役、リモコン飛行機使用のための支障木伐採に五人役)必要である。
(2) 集材架線の撤去費一五万円
林内集材用架線の撤去に五人役、及び林外搬出用架線の撤去に一〇人役が必要である。
(3) 間伐材の搬出費四三六万九〇〇〇円
代替路線においては、申請路線のように林内集材と林外搬出との一連作業ができないので、林内集材はすべて人力で行う必要があり、かつ、本件山林が平均三三度の急勾配であることに鑑みると、林内集材に必要な人夫は一日七人で、処理材積は一〇立方メートルと見るのが合理的である。搬出する全材積は五一四・〇六立方メートルであるので、三五九・八人役(514・06÷10×7)となる。
林外搬出は、一日の搬出材積を二〇立方メートル、C点における必要人夫を一日三名として、搬出作業に二五・七日(514・06÷20)を要し、七七・一人役(25・7×3)となる。
林内集材と林外搬出の総合計は、四三六・九人役(359・8+77・1)となる。
(4) 器具損料一五万円
アベックキャリア一台及びタイラー式集材機一台の金額である。
(5) 燃料費合計九万九〇〇〇円
林外搬出用分三万三〇〇〇円、林内集材用分六万六〇〇〇円、以上合計九万九〇〇〇円の燃料費が必要である。
(6) 用地補償費等四万六〇〇〇円
<1>別紙第三図面のC点及びC′点における元柱設置及び用地使用料に、それぞれ二万円が必要、<2>C点における架線下の補償費として、一名につき三〇〇〇円で二名分合計六〇〇〇円が必要、<3>以上の<1><2>の合計四万六〇〇〇円が、用地補償費等として必要である。
(7) 支障木及び損傷木発生による損害金一二九万円
<1>林内集材に際して生ずる支障木及び損傷木二〇〇本、一本につき五〇〇〇で合計一〇〇万円の損害が発生。<2>C′点に中間支柱を設置し、C点に搬出用土場を設けることに伴い、檜五〇本、雑木八〇本の支障木・損傷木が生じる。檜一本の損害金が五〇〇〇円、雑一本の損害金が五〇〇円であるので、合計二九万円の損害となる。<3>以上<1><2>の合計一二九万円が、支障木及び損傷木発生による損害金である。
(8) 中間支柱の設置費用一六五〇万円
林内集材架線のために合計五四本の中間支柱を設置する必要があり、一本当たりの設置費用に三〇万円を要するので、合計一六二〇万円となる。これに、C′点に設置する中間支柱の費用三〇万円を加算すると、総合計は一六五〇万円となる。
3 以上によると、代替路線を使用して松材を搬出することが、申請路線を使用して松材を搬出するのに比して、「著しく困難である」ことが明らかであり、本件認可申請は、森林法五〇条一項所定の要件を充足している。
三 被告の主張
1 申請路線の特定及び搬出費用等について
(一) 本件認可申請書には、極めて粗雑な別紙第一図面が添付してあったのみであり、使用機材等の記載もなく、具体的な申請路線の経路及び搬出方法について、何ら特定されていなかった。また、原告が示した集材架線の長さ三〇〇メートルでは、原告指摘の各地番土地を通って農道大麦線まで架線することは不可能である、といった矛盾もあった。
(二) そこで、被告は、現地調査を踏まえ、本件山林の林況、地形及び松材の伐採・搬出という間伐の目的等に照らし、最も合理的と判断される地点を起点・終点として、申請路線(別紙第二図面のA・B線)を特定し、本件認可申請当時の最も合理的な搬出方法(林内集材は、急斜面でも上方に引上げ可能なエンドレスタイラー式二胴型集材架線を用い、索張り三本〔別紙第四図面の帳張線<3>〕により行う。林外搬出は、主索線下の立木の損傷等が少ないホイスチングキャレッジ式複エンドレス型集材架線により行う。)で、松材搬出に要する費用を算定した。
(三) この搬出方法によると、本件山林からの松材一立方メートル当たりの搬出に要する費用は、次の(1)ないし(7)の合計一万七八四〇円となる。
(1) 伐木造材費六二〇〇円
155m3(伐採材積)÷2.5m3(1人が1日で処理できる材積)×1万円(賃金)÷100m3(林外搬出材積)=6200円
(2) 集材架線架設及び撤去費四六八〇円
林内集材架線の架設に一〇人役、撤去に五人役、林外搬出架線の架設に三〇人役、撤去に七人役、総合計五二人役が必要である。
52人役×9000円(賃金)÷100m3(搬出材積)=4680円
(3) 林外搬出費一三五〇円
荷掛け一人、荷降ろし一人、集材機械運転一人の合計三人が必要。三人が一日に処理できる材積は二〇立方メートル。
3人役×9000円(賃金)÷20m3(作業材積)=1350円
(4) 林内集材費三〇〇〇円
荷掛け二人、荷降ろし一人、集材機械運転一人の合計四人が必要。四人が一日に処理できる材積は一二立方メートル。
4人役×9000円(賃金)÷12m3(作業材積)=3000円
(5) 機械器具損料一五〇〇円
5万円(1月当たり損料)×3か月(要作業月数)÷100m3(搬出材積)=1500円
(6) 燃料費一一〇円
軽油一リットル当たり一立方メートルにつき一一〇円
(7) 用地借料その他補償費一〇〇〇円
土場、元柱作設用地及び指示索固定用地の借地料、並びに架線下補償の三か月分、その他の補償について、昭和五六年当時の本件山林周辺地域の慣習を考慮して、一〇万円と算定した。
10万円(補償費)÷100m3(搬出材積)=1000円
(四) なお、申請路線の架線下には他人所有地が多く、その土地所有者の多くの者(炭倉洋は勿論のこと、炭倉洋以外にも多くの土地所有者がいる。)が、原告が上空に集材架線を張って松材を搬出することに、異議を唱えていた。したがって、原告が申請路線により松材を搬出すれば、潜在的に他人の権利を侵害するおそれが大である。
2 代替路線における搬出費用等について
(一) 代替路線は、別紙第二図面のA点を起点とし、中間支柱設置点C′点を経て、林道羽子の木線に搬出するのに容易なC点を終点とする。林内集材は、索張りを五本(別紙第四図面の林内集材架線<3>と<3>′)とし、エンドレスタイラー式二胴型集材架線を、林外搬出は、ホイスチングギャレッジ式複エンドレス型集材架線を使用する。
(二) 以上の搬出方法によると、本件山林からの松材一立方メートル当たりの搬出に必要な費用は、次の(1)ないし(7)の合計一万八四五〇円となる。
(1) 伐木造材費六二〇〇円――申請路線と同じである。
(2) 集材架線架設及び撤去費五四九〇円
林内集材用架線の架設に二〇人役、撤去に五人役、林外搬出用架線の架設に三〇人役、撤去に六人役、総合計六一人役が必要である。
61人役×9000円(賃金)÷100m3(搬出材積)=5490円
(3) 林外搬出費一三五〇円――申請路線と同じである。
(4) 林内集材費三六〇〇円
荷掛け二人、荷降ろし一人、集材機械運転一人の合計四人が必要。四人が一日に処理できる材積は一〇立方メートル。
4人役×9000円(賃金)÷10m3(作業材積)=3600円
(5) 機械器具損料一五〇〇円――申請路線と同じである。
(6) 燃料費一一〇円――申請路線と同じである。
(7) 用地借料その他補償費二〇〇円
2万円(除去木・1箇所)÷100m3(搬出材積)=200円
なお、中間支柱、土場、元柱の作設用地は全部原告所有地であるので、積算根拠に入れていない。
(三) 代替路線の架線下には原告所有地が存在し、原告が代替路線を使用して松材を搬出すれば、申請路線を使用する場合に比べて、他人所有地の使用区間は約三分の一ですむ。しかも、代替路線下の土地所有者である宇都宮虎種は、原告が上空に集材架線を張って松材を搬出することを承諾している。したがって、原告が代替路線により松材を搬出すれば、他人の権利を侵害するおそれが少ない。
3 以上から明らかなように、申請路線と代替路線とでは、松材搬出に要する費用が一立方メートル当たり六一〇円の差額があるに過ぎず、代替路線を使用して松材を搬出することが、申請路線を使用するのと比較して、「著しく困難である」とは言えない。のみならず、申請路線の架線下には他人所有地が多いのに対し、代替路線の架線下には原告所有地が多く、申請路線から松材を搬出するよりも、代替路線から松材を搬出する方が、他人の土地に対する侵害の程度が少なくて済む。
したがって、本件認可申請は、森林法五〇条一項所定の「他の土地をもって代えることが著しく困難であること」の要件(森林法五〇条一項後段)も、「他人の土地を使用することが必要かつ適当であること」の要件(森林法五〇条一項前段)も充足しない。
四 争点
1 本件認可申請が、森林法五〇条一項後段所定の「他の土地をもって代えることが著しく困難であること」の要件を充足するか否か。
(一) 具体的には、(1)代替路線による木材の搬出が、技術的・経済的に不可能ないしは著しく困難であるか否かや、(2)申請路線と代替路線とでは、木材の搬出に要する費用は、どちらがどの程度安いのかが問題となる。
(二) これらを検討する前提として、申請路線の経路及び木材搬出方法の特定が問題となる。
2 本件認可申請が、森林法五〇条一項前段所定の「他人の土地を使用することが必要かつ適当であること」の要件を充足するか否か。
(一) 具体的には、代替路線による木材の搬出が、申請路線による木材の搬出に比べて、他人の土地に対する権利の侵害の程度が少ないものと言えるか否かが問題となる。
(二) これを検討する前提として、ここでも申請路線の経路及び木材搬出方法の特定が問題となる。
第三当裁判所の判断
一 森林法五〇条一項後段(他の土地をもって代えることが著しく困難であること)の要件充足の有無について
1 申請路線の特定について
(一) 証拠(甲四、乙一、証人大畠弘)、及び弁論の全趣旨によると、被告は、本件認可申請棄却決定において、本件申請路線の経路及びその搬出方法等について、次のとおり特定していることが認められる。
(1) 林外搬出は、別紙第二図面のA点を起点としB点を終点として、ホイスチングキャレッジ式複エンドレス型集材架線一本を架設することにより行う。索張りは全長七三〇メートルである。
(2) 林内集材は、エンドレスタイラー式二胴型集材架線を用い、索張り三本(別紙第四図面<3>の林内集材架線三本)により行う。索張りの総延長は三七〇メートルである。
(3) 伐採・搬出の時期は一一月から翌年二月までの間とし、その期間は三か月とする。本件山林に成育している松材一五五立方メートル全部を伐採し、うちパルプ材及び箱材として利用可能な一〇〇立方メートルを林外搬出する。
(二) そして、証拠(乙一・二、一五、一六・一七の各1・2、二九、証人大畠弘)及び弁論の全趣旨によると、被告が申請路線の経路及び搬出方法等を前記(一)記載のとおり特定したのは、次の理由によるものと認められ、これによると、被告の申請路線についての特定は、合理的であると認められる。
(1) 本件認可申請書(乙二)には別紙第一図面が添付されていたが、同図面は単なる一本線が引かれているだけの極めて粗雑な内容であり、集材架線の起点及び終点の特定も不十分なものであった。また、本件認可申請書には、具体的な搬出方法及び使用機材等についても、何ら記載されていなかった。更に、別紙第一図面には、約三〇〇メートルの集材架線を使用して、本件山林の中腹から三六八番、三五九番、三五七番、二五七番、二五五番、二六三番の各山林を通って、農道大麦線に松材を搬出するものと記載されているが、約三〇〇メートルの集材架線でもって右各山林の上空を通過し、農道大麦線まで至るのは物理的に不可能であった。
(2) そこで、被告担当者が、本件認可申請の内容について、原告に対し何度か問い合わせをし、更に原告に対し、申請路線について現地説明を求めるため、現地調査への立会いを要請したが、原告はこれらの要請にいずれも応じなかった。殊に、被告担当者は、昭和五六年六月一三日過ぎ頃原告に対し、別紙第四図面を添付した照会書を郵送しており(乙一六の1・2)、原告は右時点で、被告が本訴で主張している申請路線の内容を知り得たのに、被告に対し何ら回答・反論しなかった。
(3) そのため、被告担当者はやむなく、本件認可申請書及びその添付図面(別紙第一図面)を基礎とし、原告の申請した搬出方向に最も合理的と考えられる路線を設定し、申請路線の経路及びその搬出方法等を特定せざるを得なかった。すなわち、
<1> 本件認可申請書には、本件山林から松材を伐採・搬出すると記載されていたことから、被告担当者は、本件山林から伐採・搬出するのは松材と判断した。ところで、本件山林は、檜・松・杉の混合林であり、檜の植林地に周囲の山林から自然に松・杉の種子が飛来し、発芽成長したものと見られ、昭和五六年当時の松の分布状況は、尾根に近い稜線に多く分布し、尾根から下方に向かって点在して、谷川付近には見られなかった。
<2> そこで、被告担当者は、本件山林の松の分布状況からみて、林内集材に一番適している稜線上の地点であり、比較的傾斜も緩やかな地点でもある、別紙第二図面のA点を始点として選定し、松材の搬出に好都合であるように、農道大麦線の南脇の一段と高くなっている畑である別紙第二図面のB点を終点として、このA点及びB点を申請路線として特定した。
<3>また、被告担当者は、昭和五六年当時、ホイスチングキャレッジ式複エンドレス型集材架線は、架線下の樹木を損傷することが少ないという利点を持ち、東宇和郡において比較的多く使用されていた架線方式であり、集材機材の取扱いにも習熟されていたものであることから、右集材架線を林外搬出に採用した。次に、エンドレスタイラー式二胴型集材架線は、最も横取りがしやすく搬出に便宜である利点があり、やはり東宇和郡において比較的多く使用されていた架線方式であることから、右集材架線を林内集材に採用した。
<4> 更に、被告担当者は、申請路線の林内集材について、本件山林の傾斜を利用して、できる限り別紙第四図面<1>の集材架線下に人力で松材を集材し、同架線により松材を林外搬出するが、右方法で搬出できない松材は、別紙第四図面<3>の林内集材架線三本により、林内集材土場であるA点まで引き上げる方法を採用した。
(三) これに対し、原告は、申請路線における木材搬出方法は、前記第二の二の1の(一)に記載のとおり、リモコン飛行機使用による集材架線の架設を前提とし、林内集材と林外搬出とを一連の作業で行う方法であり、かつ、別紙第三図面のA1・B線からA2・B線、A2・B線からA3・B線、A3・B線からA4・B線への集材架線の移設は、リードロープを使用する方法により行うものであって、被告主張に係る申請路線の木材搬出方法とは異なる旨主張する。
しかし、原告は、被告に提出した本件認可申請書の中では、リモコン飛行機使用による集材架線の架設、リードロープを使用しての集材架線の移設、集材架線を複数本(四本)架設することなどは全く触れておらず、原告は、本件認可申請書に添付した別紙第一図面により、申請路線の木材搬出方法については、一本の集材架線による方法を主張していた。
そして、本訴は、本件認可申請に対する棄却決定の取消を求める行政処分取消訴訟であるところ、行政処分取消訴訟は、行政処分の適否に関する事後審査をその本質とするものであり、そうである以上、当該行政処分の適否についての判断は、当該行政処分の行われた当時の申請内容や、事実状態に基づいて判断すべきことになる。
したがって、本訴においても、本件認可申請棄却決定がなされた昭和五六年一二月当時の本件認可申請の内容や事実状態に基づいて、右棄却決定の適法性について判断することになり、前述したように、原告は、本件認可申請当時は、申請路線の木材搬出方法について、一本の集材架線による方法を主張していたのであり、リモコン飛行機使用による集材架線の架設、リードロープを使用しての集材架線の移設、集材架線を複数本(四本)架設することなどは全く主張していなかった以上、原告が本訴に至り、申請路線の木材搬出方法として、前述のような方法を主張することは許されない。
2 代替路線の内容について
証拠(甲四、乙一、証人大畠弘)、及び弁論の全趣旨によると、被告は、本件認可申請棄却決定において、代替路線の経路及びその搬出方法等について、次のとおり特定していることが認められる。
(一) 林外搬出は、別紙第二図面のA点を起点とし、中間支柱C′点を経て、C点を終点とし、ホイスチングキャレッジ式複エンドレス型集材架線一本を架設することにより行う。索張りは全長五三〇メートルである。A点は申請路線と同じ地点を同じ理由で選定し、C点は原告所有の七三二番の土地上にあり、かつ、林道羽子の木線に松材を搬出するのに容易な地点である。代替路線では中間支柱を設置する必要があるので、原告所有の六九〇番一の土地上の稜線に近い地点で、運搬器が松材を積んで稜線を越えられるような高さを確保できる地点である、C′点を選定した。
(二) 林内集材は、エンドレスタイラー式二胴型集材架線を用い、索張り五本(別紙第四図面<3>の林内集材架線三本と<3>′の林内集材架線二本)により行い、林内集材土場A点まで松材を引き上げる。索張りの総延長は七〇〇メートルである。索張りを合計五本としたのは、代替路線は申請路線と異なり林外搬出用架線を林内集材架線として利用できないので、申請路線より二本多く集材架線が必要と判断したことによる。
(三) 伐採・搬出の時期は一一月から翌年二月までの間とし、その期間は三か月とする。本件山林に成育している松材一五五立方メートル全部を伐採し、うちパルプ材及び箱材として利用可能な一〇〇立方メートルを林外搬出する。
3 代替路線の技術的・経済的実施可能性について
(一) 原告は、次の各理由により、代替路線は技術的・経済的に実施不可能もしくは多大な困難が伴う旨主張する。
(1) 代替路線では、平均三三度の急勾配である本件山林の上方に向かって林内集材する必要があるが、これは実施困難である。
(2) 林外搬出用架線について、申請路線は、見通しが良くまっすぐな索張り線が張れるが、代替路線は見通しが悪いので、まっすぐな索張り線が張れない。
(3) 林内集材用架線(五本の索張り)が地面に接地する可能性が高く、これを避けようとすると、五四本の中間支柱を設置する必要があり、莫大な費用を要し経済的に不可能である。
(4) 林内集材をする場合に、各林内集材架線に多数の中間支柱が設置されているので、カッチンにオオイガネをする必要があり、作業能率が落ちる。
(5) 本件山林には中間支柱に利用できる立木がないので、林内集材架線の中間支柱及びC′点の中間支柱の材料は下から上げなければならず、更に費用を要する。
(6) 林内集材架線をジクザクに索張りする必要があるが、搬出すべき間伐材は長さ一六メートルにも及ぶので、集材中頻繁に中間支柱と間伐材との衝突が起きることとなり、実際上搬出は困難である。
(7) 林内集材に一〇〇本の支障木・損傷木(損害一〇〇万円)が生じ、林外搬出の際、C′点及びC点付近に檜五〇本・雑木八〇本の支障木・損傷木(損害二九万円)が生じる。
(二) そこで、原告が代替路線が技術的・経済的に実施困難である根拠として指摘する各事項について、以下各事項毎に検討を加える。
(1) 前記(一)(1)について
証拠(乙一、証人大畠弘)及び弁論の全趣旨によると、代替路線で使用するものとして採用されたエンドレスタイラー式二胴型集材架線は、急斜面でも木材を上方に引き上げることができるものとして一般的に利用されていることが認められ、本件山林が三三度の急勾配であっても、林内集材が不可能であるとは認められない。原告自身、その本人尋問において、伏見・堀口調査(乙三)が採用している単線循環式軽架線方式に対しては、林内集材が不可能な方法を採用していると不服を述べたが、エンドレスタイラー式二胴型集材架線を採用した被告の調査(乙一)に対しては、そのような不服を述べていない。
なお、仮に、単線循環式軽架線方式を採用したとしても、スリップ防止のため滑車と荷吊り金具に改良を加えることで、四〇度の急傾斜地でも搬送可能であり(乙二二)、単線循環式軽架線を使用した場合でも、平均三三度の急勾配山林の上方に向かって、林内集材を実施することは可能である。
(2) 前記(一)(2)について
証拠(乙九の1・2、二八・二九、三三の1・2、証人大畠弘)によると、本件認可申請当時、宇都宮虎種所有の六六一番一山林(A・C′間の山林)は、昭和五三年から五四年にかけて生えていた雑木が全て伐採搬出され、裸山同然の状態にあり、原告所有の六九〇番一山林(C′・C間の山林)は、昭和五四年に生えていた樹木が全て伐採搬出され、その後に植林された幼木も、まだ高さが四〇センチメートルにしか成育していなかったことが認められる。
したがって、本件認可申請当時は、代替路線の見通しは非常によく、C点からC′点・A点を見通すことができたので、A点・C′点・C点にまっすぐ集材架線を張ることが可能であったことが認められる。
(3) 前記(一)(3)(4)(5)について
証拠(乙一、二一、二六の1・2、二九、証人大畠弘)によると、<1>昭和五六年当時の本件山林内の松材は、節や曲がりが多数あって建築材としては使用できず、せいぜい箱材又はパルプ材としての利用しか考えられなかったこと、したがって、松材の林内集材においては、伐採した松材をもとの長さのまま搬出する必要はなく、適当な大きさに玉切りして搬出すれば足りること、<2>林内集材においては、伐木を完全に吊り上げて搬送する必要はなく、伐木の一部を地面に接地させたままの運搬でも不都合は生じないこと、<3>そうすると、林内集材架線の高さはそれほど高くする必要はなく、適切な方向に架線して中間支柱を設置するならば、代替路線の林内集材架線における中間支柱は各一本で足りること、以上の事実が認められる。
右認定によると、代替路線による松材搬出は、合計六箇所(五本の林内集材架線に各一箇所とC′点に一箇所)の中間支柱の設置で足りる。そして、本件山林には、昭和五六年当時二五年生から三五年生の松・杉・檜が生えており(乙一、六ないし八)、これらの生立木は、林内集材架線の中間支柱の外、C′点の中間支柱としても十分利用することができ、設置手間及び器具損料とも大した経費を要するものではないので(乙一八、一九の1ないし6、二九)、代替路線において、中間支柱設置に要する費用の額が莫大となるといった事情は認められない。
また、前示のとおり、代替路線においては林内集材架線一本に設置する中間支柱は一本で足り、中間支柱が一本であれば、本件山林内で林内集材をする場合に、カッチンにオオイガネをする必要がないので(乙二九)、作業能率が落ちるとも言うことはできない。
(4) 前記(一)(6)について
代替路線の林内集材は、急斜面でも木材を上方に引き上げることができるエンドレスタイラー式二胴型集材架線を用い、かつ、本件山林の林内集材では、伐採した松材を適当な大きさに玉切りして搬出すれば足り、伐木の一部を地面に接地させたままの運搬でも不都合は生じない(前記(3))ので、適切な方向に集材架線を架線して中間支柱を設置するならば、中間支柱の設置は集材架線一本につき各一個で足りる。したがって、集材架線をジグザグに索張りする必要がない。よって、代替路線による林内集材において、運搬中に伐木と中間支柱とが衝突して作業に困難をきたすとは認められない。
(5) 前記(一)(7)について
<1> 証拠(乙一、六ないし八、一三、証人大畠弘)、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められるのであり、代替路線の林内集材に際して、支障木及び損傷木が生じたからといって、そのために原告に損害が生じるものとは認められない。
(a) 支障木とは、架線下に十分な吊り上げ高が確保できないため、伐採する架線下の樹木や、横取り及び木寄せをするのに支障があり、伐採する樹木のことをいう。損傷木とは、横取り及び木寄せの際の伐木が立木に接触して、樹皮等に傷を付けられた樹木のことをいう。申請路線・代替路線ともに、林内集材に際しては、林内集材架線について、十分な吊り上げ高が確保できないため支障木が生じ、また横取り及び木寄せに伴う支障木及び損傷木が生じる。
(b) しかし、支障木及び損傷木の本件山林の立木総本数に占める割合は僅かである。そして、本件山林は檜・杉・松の混合林であるが、檜植林後一度も間伐がされていないことや、通常の山林経営において、一回の間伐の割合が本数で二五パーセント程度に達することに照らせば、申請路線・代替路線ともに、林内集材に際して支障木及び損傷木が生じても、間伐効果こそあれ、将来の育林に何ら悪影響を与えるものではない。
<2> 更に、代替路線による林外搬出に際しても、C′点及びC点付近で多数の支障木・損傷木が生じ、多額の損害が生ずるものとは認められない。すなわち、
(a) 原告所有の六九〇番一の山林は、昭和五四年に立木が伐採搬出され、本件認可申請当時は、その後植林された幼木が高さ四〇センチメートル程度にしか成育していなかったのであるから(前記(2))、C′点(六九〇番一の山林上の地点)に中間支柱を設置するに当たり、生立木に損傷を与えないように工夫して、中間支柱を設置することが可能であったことが認められる。
(b) 本件認可申請当時、本件山林内の松材は、節や曲がりが多数あって建築材としては使用できず、せいぜい箱材又はパルプ材としての利用しか考えられなかった。したがって、本件山林の林内集材においては、伐採した松材を適当な大きさに玉切りして搬出すれば足りた(前記(3))。そうすると、C点では、玉切りされて林外搬出用架線により降ろされてきた松材を、そのままトラックに積み込めばよく、C点に玉切りのための場所を設ける必要はないから、C点では殆ど生立木を伐採する必要はないことが認められる。
(三) 以上によると、代替路線による松材搬出が技術的・経済的に実施不可能あるいは困難とは認められず、原告の前記(一)の主張は理由がない。
このことは、愛媛大学農学部教授伏見知道及び愛媛県森林組合連合会木材部長堀内功両名が、昭和五三年七月二八日に本件山林を調査した結果に基づき共同して作成した調査報告書(乙三、以下「伏見・堀内調査」という。)、高知営林局宇和島営林署事業課長山内克洋が、昭和五八年一一月一日・八日に調査した結果に基づき作成した調査報告書(乙六、以下「山内調査」という。)、高知営林局宇和島営林署長小原正人が、平成二年一月一六日に調査した結果に基づき作成した調査報告書(乙八、以下「小原調査」という。)が、いずれも、代替路線を使用して本件山林から松材を搬出することが技術的・経済的に可能であることを前提に、その搬出費用を算定していることからも裏付けられる。
なお、これらの各調査は、被告が本訴で主張している(換言すれば、被告が本件認可申請棄却決定中で想定していた)申請路線・代替路線とは、その基準となる調査時期や使用機材等を異にし、代替路線の技術的・経済的な実施可能性や、申請路線と代替路線との松材搬出費用の比較について、判断するための直接証拠と評価するには問題がある。しかし、前記各調査で採用されている申請路線・代替路線は、被告が本訴で主張している申請路線・代替路線と、松材搬出経路や搬出方法が同一であることから、代替路線の技術的・経済的な実施可能性や、申請路線と代替路線との木材搬出費用を比較するについて、有力な証拠資料にできることは明らかであろう。
4 申請路線及び代替路線における各搬出費用の比較について
(一) 証拠(乙一、証人大畠弘)、及び弁論の全趣旨(被告の平成三年二月二一日付け準備書面の第一の二)によると、申請路線を使用し、被告主張の搬出方法(集材架線一本)により、本件山林から松材を搬出するのに要する費用は、前記第二の三の1の(三)記載のとおりであり、そこに記載された数字は、昭和五六年当時の本件山林内の立木成育状況、立木の伐採搬出技術・人件費・諸物価水準等に基づき算出された合理的な内容であって、昭和五六年当時、松材一立方メートル当たり一万七八四〇円であったことが認められる。
なお、右数値には、B点から木材市場まで松材を輸送する費用は含まれていない(被告の平成三年二月二一日付け準備書面第一の二の6参照)。申請路線では、B点でトラックに松材を積み込み、トラックで木材市場まで松材を輸送することになるが、農道大麦線は道幅が狭く四トン車しか通行できないため、本件山林の松材を伐採して木材市場まで輸送するのに要する費用ということになれば、前記数値一万七八四〇円に、更に高額のトラック輸送費を加算しなければならない(乙六・八参照)。
(二) これに対し、証拠(乙一、証人大畠弘)、及び弁論の全趣旨(被告の平成三年二月二一日付け準備書面の第一の二)によると、代替路線を使用して、本件山林から松材を搬出するのに要する費用は、前記第二の三の2の(二)記載のとおりであり、そこに記載された数字は、昭和五六年当時の本件山林内の立木成育状況、立木搬出技術・人件費・諸物価水準等に基づき算出された合理的なものであって、昭和五六年当時、松材一立方メートル当たり一万八四五〇円であったことが認められる。
なお、右数値には、C点から木材市場まで松材を輸送する費用は含まれていない(被告の平成三年二月二一日付け準備書面第一の二の6参照)。代替路線では、C点でトラックに松材を積み込み、トラックで木材市場まで松材を輸送することになるが、林道羽子の木線は道幅が広く八トン車が通行できるため、本件山林の松材を伐採して木材市場まで輸送するのに要する費用ということになれば、前記数値一万八四五〇円に、申請路線に比べて格安のトラック輸送費を加算すれば足りる(乙六・八参照)。
(三) 原告は、代替路線による搬出費用について、前記第二の二の2の(三)記載のとおり主張し、被告の算定は必要となる費用を正しく計上していない旨主張する。
しかし、以下に検討するとおり、被告の算定方法に不合理な点はないと認められ、原告の主張は採用できない。
(1) 原告は、C′点の中間支柱架設のため五人役を計上しているが、乙第一〇号証によると、集材架線の架設に必要な人工数は、ほぼ架線の長さに比例することが認められ、代替路線は申請路線よりもその全長が短い以上(代替路線が五三〇メートルであるのに対し、申請路線は七三〇メートル)、代替路線は申請路線よりも少ない人工数で架設可能と考えられる。そして、証拠(乙一、三、六ないし八)によると、中間支柱C′点架設のための人工数を考慮に入れても、代替路線は申請路線と同じ人工数で架設可能と認められ、中間支柱設置のための人工数を別に計上する必要はない。
(2) 原告は、リモコン飛行機利用のための支障木伐採にも五人役計上しているが、代替路線はリモコン飛行機を使用するものではないから、そのための支障木伐採は必要でない。しかも、本件認可申請当時、代替路線側の山林のうち、宇都宮虎種所有の六六一番一の山林は伐採後の裸山、原告所有の六九〇番一の山林は、植林直後で樹高は未だ四〇センチ程度のものであり、林外搬出路線開設のために支障木を生ずるものとは認められない。
(3) 原告は、林内集材架線の架設に三五人役計上しているが、証拠(乙一、三、六ないし八、一〇)によると、代替路線における林内集材架線の索張りは、八〇メートルから最長でも二二〇メートルと短いこと(別紙第四図面参照)、一般に、一〇〇メートルの索張りに必要な人工数は、多くても一〇人未満とされていること、伏見・堀内調査、山内調査、小原調査においても、代替路線における林内集材架線の架設は、一一人役ないし一八人役で架設可能と判断されていることに照らすと、三五人役も必要とは認められない。
(4) 原告は、伐採対象を松のみでなく松・檜・杉及び雑の四種とし、かつ、本件認可申請棄却決定から八年近く経過した平成元年一一月時点での本件山林の状況を前提として、伐材・搬出材積を五一四・〇六立方メートルとし、これを前提に伐採・搬出に必要な費用を計算している(原告の平成三年五月二七日付け準備書面二枚目裏から四枚目裏まで参照)。しかし、原告は伐採対象を松のみとして本件認可申請をしており、本件認可申請棄却決定がなされたのは昭和五六年一二月であるから、本件認可申請棄却決定の適否を判断するに当たっては、昭和五六年一二月時点での本件山林の状況を基準とし、松のみを伐採対象とする場合の伐採材積・搬出材積を前提として、そのために要する費用を計算しなければならないのであり、原告の伐採・搬出材積に関する主張は根本的に間違っている。
(5) 原告は、林内集材の作業工程を一日七人/一〇立方メートルとしている。しかし、伏見・堀内調査、山内調査、小原調査においては、代替路線における林内集材の作業工程は、一〇立方メートルにつき一日四人ないし五人と算定されていること及び代替路線における林内集材架線の平均索張は一四〇メートルであるところ、ほぼ同じ集材距離である国有林における作業工程が、一日四人/一〇立方メートルであること(乙一二)の各事情に照らすと、林内集材に原告の主張するような、一日七人/一〇立方メートルも必要であるとは認められない。
(6) 原告は、C′点及びC点における用地補償費を計上しているが、C′点は原告所有の六九〇番一の山林に設置し、C点も昭和五六年当時原告が所有していた七三二番の山林(甲一六参照)に設置するものであるから、いずれの地点においても、用地補償費の支払は必要がない。
5 総括
(一) 森林法五〇条一項後段所定の「他の土地をもって代えることが著しく困難であること」とは、適当な代替地が存在する場合は、その代替地を使用すべきであり、代替地の使用が著しく困難である場合に限り、都道府県知事の認可を受けて、他人の土地使用についての協議を求めることができることを意味する。
そして、ここでいう困難には、技術的な困難だけではなく、経済的な困難も含まれるが、森林法が単なる困難ではなく、著しく困難であることを要求している以上、山林所有者が自己所有地を使用して木材を搬出できるにもかかわらず、他人の土地を使用して木材を搬出した方が、搬出に要する費用が相対的に安いために経済的であるという程度では、「著しく困難」の要件を充足せず、都道府県知事は認可すべきではないと解すべきである。
(二) これを本件について見るに、前記1ないし4の認定によると、本件認可申請については、申請路線の他に被告が認定した代替路線が存在し、かつ、その代替路線による松材の搬出に、特に技術的に実施困難な点はない。
そして、松材一立方メートル当たりの搬出費用は、木材市場までのトラック輸送費を加算しなければ、申請路線が一万七八四〇円、代替路線が一万八四五〇円と殆ど変わらず、トラック輸送費を加算すると、かえって代替路線の搬出費用の方が安くなる。
このことは、前述した本件認可申請に関する各種調査結果によっても裏付けられる(なお前記3(三)の三段目参照)。すなわち、
(1) 伏見・堀内調査によると、本件山林から松材一立方メートルを搬出するのに要する費用は、申請路線が一万一八七三円、代替路線が一万二〇七〇円である。右費用には、木材市場までのトラック輸送費が加算されていない。
(2) 山内調査によると、本件山林から松材一立方メートルを搬出するのに要する費用は、申請路線が三万〇四二一円、代替路線が二万九五五九円である。右費用には、木材市場までのトラック輸送費が加算されている。
(3) 小原調査によると、本件山林から松材一立方メートルを搬出するのに要する費用は、申請路線が三万一四六二円、代替路線が三万〇〇九三円である。右費用には、木材市場までのトラック輸送費が加算されている。
(三) 以上の次第で、本件認可申請は、森林法五〇条一項後段所定の「他の土地をもって代えることが著しく困難であること」の要件を充足しない。
二 森林法五〇条一項前段(他人の土地を使用することが必要かつ適当であること)の要件充足の有無について
1 申請路線下の土地の状況、当該土地所有者の意向について
(一) 申請路線の長さは東西約七三〇メートルであり、内約二五〇メートルが原告所有の本件山林であり、残り約四八〇メートルが他人所有地であった(甲四)。別紙第二図面のA点からB点に向かって斜面になっており、A・B間約七三〇メートルの内、西側約七割強が山林であり、東側約三割弱が田畑であった(乙九の1・2)。
(二) 炭倉洋所有の三六八番山林は本件山林の東側に隣接し、植林後八年ないし一〇年経過した檜・杉の植林地であり、申請路線に約二二〇メートルかかる。右土地所有者の炭倉洋、同管理人の上甲福登ともに、本件認可申請当時、三六八番山林の上空に集材架線を張って木材を搬出することに反対し、その理由として、三六八番山林は、年間を通じて枝打ち・間伐などの作業を行っているため、その上に集材架線を張って木材を搬出するのは危険であり、絶対に承諾できないと主張していた(甲四、乙一、七、二三ないし二五)。
(三) 三七三番山林所有者の上甲福登、二五四番畑・二五五番田・二六五番畑所有者の上甲虎雄も、本件認可申請当時、原告が右各田畑・山林の上空に集材架線を張って、木材を搬出することに反対していた(乙一、七、二三、二五)。農地は山林に比べて人の存在・通行が多く、それだけ松材搬出に際しても、路線下の土地や人命等に対して危害を及ぼす可能性が高い。
2 代替線路下の土地の状況、当該土地所有者の意向について
(一) 代替路線の長さは南北に約五三〇メートルあり、本件認可申請がなされた昭和五六年当時、内約三七〇メートルが原告所有山林の上空を通り、残り約一六〇メートルが宇都宮虎種所有山林の上空を通る路線であった(甲四、一五・一六、乙一、七)。代替路線下は、林道羽子の木線の道路敷以外は全て山林であり、申請路線下のような田畑はない(乙七)。
(二) 宇都宮虎種は、本件認可申請当時、原告が六六一番一山林の上空に集材架線を張り、本件山林から伐採した松材を、代替路線を使用して搬出することを承諾していた(乙一、六ないし八、証人大畠弘)。
3 総括
以上のとおり、代替路線を使用して松材を搬出すれば、他人所有地の使用区間は申請路線の三分の一ですむこと、他人所有地についてみても、代替路線下の所有者(一人)は使用を認めていたのに対し、申請路線下の所有者のうち三人が使用を認めていなかったこと、代替路線下はほぼ全部が山林であるのに、申請路線下は三割弱が農地であり、路線下が農地である場合は路線下が山林である場合に比べて、路線下の土地や人命等に危害を及ぼす可能性が高いことに照らすと、代替路線の方が申請路線に比べて、他人の権利に対する侵害の程度が遙かに小さいことが認められる。
そうすると、原告が炭倉洋所有の三六八番山林(申請路線下の土地)を使用することが適当であるとは認められず、本件認可申請は、森林法五〇条一項前段所定の「他人の土地を使用することが必要かつ適当であること」の要件も充足しない。
第四結論
よって、本件認可申請棄却決定は適法であり、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 紙浦健二 高橋正 橋本佳多子)
別紙
物件目録
(一) 愛媛県東宇和郡野村町大字長谷三六二番
保安林 三万二一二三平方メートル
(二) 愛媛県東宇和郡野村町大字長谷三六八番
山林 一万四〇五四平方メートル
(三) 愛媛県東宇和郡野村町大字長谷三五九番
山林 一万三七二七平方メートル
別紙第一ないし第四図面<省略>